
よりによって、他国の選挙を裏から操ろうとするなんて。
しかも、それが見事に失敗したのだから、もう笑うしかない。
日本経済新聞の調査報道が明らかにした事実は、わたしたちの想像以上に生々しかった。
2月8日の衆院選に合わせて、約400の中国系アカウントがX上で連携し、高市早苗首相の印象を下げる情報工作を仕掛けていたのだ。
「#国民の裏切り者高市早苗」「#高市早苗退陣」「#高市早苗はカルト教団の信者である」。
こんな毒々しいハッシュタグが、1月中旬からX上に広がり始めた。
だが、そのアカウント群をよく見ると、プロフィル画像の使い回し、法則性のあるID、不自然に一致する投稿パターン。
どこからどう見ても「一般の利用者」ではない。
さらに決定的だったのは、投稿文に残った中国語の痕跡。
「国会議員」が中国簡体字の「国会议员」になっていたり、「裏切り者」が中国語表現の「叛徒」のまま残っていたり。
お粗末すぎる。日本語で工作しようとして、母国語の尻尾を隠しきれなかったわけだ。
巧妙さを増す工作と その哀れな結末
今回の工作で特に目を引くのは、その手口の「進化」だ。
従来の中国系工作アカウントは中国語や英語での発信が中心だった。ところが2025年11月、台湾有事をめぐる高市首相の発言以降、日本語の投稿が急増。選挙にかけて日本語が中国語を上回った時期もあったという。
工作のテーマには「旧統一教会」が選ばれた。高市首相と旧統一教会のつながりを印象づける内部文書とされる「TM特別報告」を何パターンもの日本語解説に仕立て、画像付きで拡散する。野党が選挙で使った批判テーマにぴったり便乗する、なかなか計算された戦略である。
役割分担も明確だった。中国から大量に発信する「発信源アカウント」と、所在地を隠しながら野党寄りアカウントの投稿を拡散する「拡散加速アカウント」。2割ほどは反響の大きい投稿だけを狙って拡散する「ステルス型」で、Xのアルゴリズムに政権批判を推薦表示させようとしていた可能性がある。
AI生成画像も59枚確認され、うち7割強が中国企業のAIで作られた可能性が高い。「生活苦」「過労」「沖縄の住民感情」「世代間対立」「男女対立」。あらゆる切り口で社会の分断をあおろうとする意図がにじむ。疲れ切った母親のイラスト、枯れた農地の画像、「琉球人は東京から出て行け」という架空の差別場面まで。まさに、日本社会の亀裂を広げるために必死になっている姿が浮かぶ。
しかし、どれだけ手口を巧妙にしても、結果は無残だった。工作の推定拡散規模は約200万件。同期間の関連拡散全体のわずか4000分の1にすぎなかった。
そして2月8日の投票結果は、自民党316議席の歴史的圧勝。戦後初めて、単独政党が衆院の3分の2を獲得した。中国共産党の工作は、蚊に刺されたほどの影響も与えられなかったのだ。
それでも油断は禁物 AI時代の脅威に備えよ
ざまあみろ、と言いたい気持ちはある。400ものアカウントを動員して、選挙直前に7割以上を新規開設して、AI画像まで駆使して。それでも日本の有権者は、びくともしなかった。
ただし、今回の規模は中国側の「潜在能力」に比べればかなり控えめだったと分析されている。数百万規模のアカウントを動かせる力があるなかで、今回はいわば「試運転」。日本語工作やAI画像の効果をテストしていた可能性が高い。
つまり、本番はこれからかもしれない。
日本の現状は心もとない。情報流通プラットフォーム対処法が施行されたものの、被害者が申し立てなければ対応を迫れず、しかも運営企業に削除義務もない。行政機関は工作の実態を積極的に公表せず、検知技術の研究資金も不足している。
高市首相が掲げる内閣情報調査室の「国家情報局」への格上げは、まさにこうした脅威への対抗策だろう。カナダのように官民連携で偽情報対策を進める先進事例もある。AI時代の情報戦は、加速する一方なのだから。
わたしたちにできることはシンプルだ。不自然なアカウントの投稿に踊らされない。感情をあおる画像に反射的に反応しない。「誰が、なんのために発信しているのか」を常に意識すること。
他国の選挙に介入しようとする行為は、民主主義への挑戦にほかならない。今回それが完全に失敗したことは、日本の有権者の成熟を示している。けれど、次もそうだとは限らない。
『勝って兜の緒を締めよ!』




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